割り勘をする淑女たち

ある休日の昼下がりでした。昼食を食べようとお店に入ったのですが、あいにく店内は満席のようで「あと10分程で席が空きます」とのことでした。私はそのくらいだったらいいだろうと待合席で座っていると、四人の淑女が食事を終えて会計をしている姿が見えました。

その場のお会計は2700円だったようで、淑女たちは割り勘をしようとしていたのですが、ここのお店は「一括でのお支払いをお願いします」というスタンスでした。

しかし淑女たちは「4等分にしてもらえないかしら」と強く懇願します。お金の問題ですから、そこはしっかりするのは当然でしょう。ですが、やはりお会計は一括でという姿勢は崩れず、そうこうしているうちに淑女のひとりが財布を取り出して「とりあえず私が出しておくわ」と言いました。

すると別の人が「いいのよ先生は!ここは私たちが出すわ」といった感じに、先生が出した財布をカバンにしまわせました。見た感じは同世代に見えますが、どうやら習い事の先生と生徒の関係のようです。

そして生徒と思われる淑女が一括で支払ったのですが、四人の淑女はその場で「ひとりあたりいくらかしらねえ」と割り勘の議論を始めました。

「ししち、にじゅうはちでしょう?」

と別の淑女が言いました。しっかりと先生の分もカウントして計算していました。

「ししち、にじゅうはちよねえ」

また別の淑女も言いました。またもや先生はカウントされています。

「ししち、にじゅういちじゃないかしら?」

いよいよ計算が間違い始めて、一体何のことだかわからなくなってきました。

「やっぱり、ししちにじゅうはちだわ」

別の淑女がそう言って、全員が納得したところで、四人は満足そうに店を出て行きました。その後ろ姿と歩調は心なしか自信に満ち溢れていて、その勇ましさに尊敬の念すらおぼえる程でした。

しかし私は思いました。

あのやり取りは一体何だったのだろうかと。

その後、四人の淑女がどういう割り勘をしたのか、私にはわからないのでした。